同じ季節、同じ場所で過ごしていても、暑さが苦手な人もいれば、寒さが苦手な人もいます。食欲が安定している人もいれば、日によって大きく変わる人もいる。動くことが好きな人、じっくり考えてから動く人。私たちの身体や心には、それぞれ違いがあります。
アーユルヴェーダでは、こうした一人ひとりの違いや、日々変化する心身の状態を理解するために、「ドーシャ(Dosha)」理論を用います。
ドーシャには、Vata(ヴァータ)・Pitta(ピッタ)・Kapha(カパ)の3つがあります。
「私はVataだからこれを食べる」「Kaphaだからこれはダメ」と自分を分類するためのものではありません。大切なのは、ドーシャの性質を知ることで、今の自分はどんな状態なのか、季節や暮らしの中でどう変化しているのかを観察できるようになること。
この記事では、Vata・Pitta・Kaphaそれぞれの特徴と役割、生まれ持った体質と今の状態の違い、季節や年齢による変化まで、ドーシャ理論の基本を紹介します。
ドーシャとは?
ドーシャには、Vata(ヴァータ)・Pitta(ピッタ)・Kapha(カパ)の3つがあります。
アーユルヴェーダでは、この3つがそれぞれ異なる性質と役割を持ちながら、私たちの身体や心の働きに関わっていると考えます。どれかひとつだけを持っているのではなく、誰の中にもVata・Pitta・Kaphaのすべてがあります。その割合やバランスが一人ひとり異なり、また季節や年齢、生活環境などによっても変化していきます。
まずは、それぞれがどんな役割を持っているのか見てみましょう。
Vata|運ぶ・伝達する
Vataは、「動き」を担うエネルギーです。アーユルヴェーダでは、呼吸や身体の動き、体内で何かを運ぶこと、排出など、「運ぶ」働きを行い、また、気持ちを伝達するのもこのVataによるものです。
Pitta|消化し、代謝する
Pittaは、「消化」し「代謝」を担うエネルギーです。食べたものを消化・代謝することだけでなく、情報を理解したり判断したりする働きにも関わると考えます。
Kapha|維持し、固定する
Kaphaは、「維持」し「固定」するエネルギーです。身体を安定させ、必要なものを受け止め、育む働きに関わると考えます。
Vataが動かし、Pittaが変換し、Kaphaが支える。3つのドーシャはどれが良い・悪いというものではなく、どれも私たちが生きていくために必要なものです。
ドーシャを自然の風景の中で捉える
ドーシャは、私たちの身体の中だけにあるものではありません。アーユルヴェーダでは、私たちを取り巻く自然や季節、時間の中にも、Vata・Pitta・Kaphaと同じ性質を見つけることができます。たとえば、Vataは「風・空」、Pittaは「火・水」、Kaphaは「水・土」の元素と関係しています。言葉だけでは少しわかりにくいので、自然の風景を思い浮かべながら、それぞれのドーシャを見てみましょう。
vata…風・空
五大元素でいうと「風・空」に分類されるvataは、自然の風景の中では、風や空間にその性質を見つけることができます。
原っぱに寝転んで木を見上げてみると、葉を揺らす風は、あっちへ行ったりこっちへ行ったり。絶えず動き、何かを運び、ひとところに留まりません。
vataには、軽い・乾燥している・冷たい・動くといった性質があります。
私たちの中でもvataが優勢になると、動きが多くなったり、乾燥や冷たさといった同じ性質が現れやすくなります。
pitta…火・水
「火・水」に分類されるpittaは、物事を消化・代謝し、別のものへと変換する力を持っています。
焚き火を用意して、ギーを塗ったリンゴをホイルで包み、火の中に入れてみましょう。しばらくすると、硬かったリンゴは柔らかく甘くなり、食べやすい状態へと変化します。
これが、pittaの持つ「変換」のイメージです。
pittaには、熱い・鋭い・やや油性・流動性があるといった性質があります。
私たちの中でもpittaが優勢になると、熱や鋭さといった同じ性質が現れやすくなります。
kapha…水・土
「水・土」に分類されるkaphaは、湖の水や、木がしっかりと根を張る土のような風景の中に、その性質を見ることができます。
vataが動かし、pittaが変換する一方で、kaphaはそれらを受け止め、安定させ、育みます。
kaphaには、重い・冷たい・油性・安定しているといった性質があります。
私たちの中でもkaphaが優勢になると、動きがゆったりしたり、安定感や重さといった同じ性質が現れやすくなります。
生まれ持った「プラクリティ」と、今の状態「ヴィクリティ」
ドーシャを理解するときに知っておきたいのが、「プラクリティ」と「ヴィクリティ」という考え方です。
アーユルヴェーダでは、生まれ持ったドーシャのバランスをプラクリティと呼びます。一方、季節や年齢、食生活、生活環境などの影響を受けながら変化している現在のバランスをヴィクリティと呼びます。
私はこれを、真ん中に軸があるやじろべえのようなものだと考えています。
自分の中には軸がある。でも、ずっと同じ場所で止まっているわけではなく、周りの環境に影響されながら、ゆらゆらとバランスを変えて生きている。だから、生まれ持った自分の性質を知ることと同じくらい、「今の私はどうだろう?」と観察することが大切です。
季節や年齢によってもドーシャは変化する
「自分に合ったものを知る」ために「自分というものを理解する」とすると、確固として動かない自分を想像したくなりますが、生まれた時の姿で死んでいく人がいないように、ドーシャも一生の間はもちろん、一年の間にもそのバランスが変化していきます。
eatreat.では、自分自身の心身の変化を観察すると同時に、自分を取り巻く環境の観察もすることで、人が自然と共鳴し合って変化し、その変化を気持ちよくバランスするように食生活でケアすることを勧めています。
ドーシャは「診断する」より、観察する
インターネットなどで「ドーシャ診断」を見かけることがありますが、いくつかの質問だけで自分のドーシャを正確に理解するのは難しいと私は思います。
たとえば「むくみが気になる」というひとつの状態だけを見て、「私はKaphaなんだ」と判断することはできません。アーユルヴェーダでは、同じように見える状態でも、その人のもともとの性質や、季節、食生活、生活環境など、さまざまな要素を重ねながら考えていきます。眼の形や眼差しなど、自分自身では客観的に捉えにくいものもあります。
ドーシャ理論はとても奥行きのあるものです。自分のプラクリティを詳しく知りたい場合には、専門家による丁寧な問診を受けるという方法もあります。
でも、毎日の暮らしの中でできることもあります。「今の自分はどうだろう?」と観察することです。自分の心身だけでなく、自然にも目を向けてみる。懐かしい気持ちになる風景。なぜか落ち着く風景。自分と同じ性質を持っているように感じる風景。
同じ雪深い土地でも、湿度の低い北海道と、湿度の高い日本海側では性質が違います。暑い土地でも、カラッとした場所もあれば、湿度の高い場所もあります。温かい・冷たい、乾燥している・油分がある、軽い・重い、動く・安定する。
そんな性質を観察しながら、「自分って、地球上のどんな景色に似ているだろう?」と想像してみると、ドーシャが少しずつ身近なものになってきます。ちなみに私は、冷静に自分を見てみると、アマゾンみたいに暑くてじめっとして(笑)、情に厚く、生命力に溢れているなと思います。
アーユルヴェーダの食事で大切な「アグニ」について
何を食べるかだけではなく、「今の自分がきちんと消化できるか」を見る。アーユルヴェーダの食事で大切にする消化力(アグニ)について紹介しています。
[アーユルヴェーダの食事、肝心要は「消化力(アグニ)」を読む]
毎日の食事から、自分を観察する
ドーシャを知ることは、「私はVata」「私はKapha」と自分を決めることではありません。季節や環境によって変化する自分を観察して、今の自分には何が必要だろう?と考えるためのひとつの手がかりです。そしてアーユルヴェーダでは、その観察を毎日の食事にもつなげていきます。
今日はどんなものをおいしいと感じるのか。
どのくらいお腹が空いているのか。
今の季節には、どんな食材や調理法が心地いいのか。
eatreat.のアーユルヴェーダ料理教室では、ドーシャをはじめとする基本的な考え方を学びながら、季節やその日の自分を観察し、食材やスパイス、調理法を選ぶことを実際の料理を通して身につけていきます。
レシピを覚える、その先へ。「今日の自分には、何を作ろう?」そんなふうに、自分で考えて毎日の食事を選べるようになることを大切にしています。
