健康のために、何を食べたらいいんだろう。
野菜をたくさん? 発酵食品? スーパーフード?
食の情報があふれる今、「何を食べるか」に目が向きがちですが、アーユルヴェーダには少し違う視点があります。大切にするのは、その食べものを、今の自分がきちんと消化できるかどうか。
アーユルヴェーダでは、この消化する力を「アグニ(Agni)」と呼びます。
同じものを食べても、心地よく消化できる日もあれば、なんだか重たく感じる日もある。たくさん食べられる日もあれば、あまり食欲がない日もあります。体質だけでなく、季節や年齢、その日の過ごし方によっても、私たちの状態は変化していきます。
だからアーユルヴェーダの食事では、「身体にいいものを食べる」ことだけではなく、今の自分の消化する力を観察し、それに合わせて食べ方を選ぶことを大切にします。
この記事では、アーユルヴェーダの食事の肝心要ともいえる「アグニ」について、毎日の食事でどう考えればいいのかを紹介します。
アグニとは?
「アグニ」は、サンスクリット語で「消化の火」「消化力」を意味する言葉です。アーユルヴェーダでは、食べたものを消化し、自分の身体をつくる力を「消化の火=アグニ」と表現します。
どんなに「身体にいい」といわれるものでも、今の自分にとって消化しきれないのであれば、必ずしもその人にとってよい食事とは限りません。
何を食べるかと同じくらい、どう消化できるかを見る。これが、アーユルヴェーダの食事を考えるうえで大切な視点です。
アグニには4つの状態がある
① ヴィシャマ・アグニ|不規則な消化力
食欲や消化にムラがある状態。食欲がある日とない日があったり、排便のリズムが不規則になったりすることも。アーユルヴェーダではVataの影響が強いときに見られると考えます。
② ティークシュナ・アグニ|鋭い消化力
消化の火が強く、食べても比較的早く空腹を感じる状態。アーユルヴェーダではPittaの影響が強いときに見られると考えます。
③ マンダ・アグニ|緩慢な消化力
食べたものを消化するのに時間がかかり、食後の重たさなどを感じやすい状態。アーユルヴェーダではKaphaの影響が強いときに見られると考えます。
④ サマ・アグニ|バランスのとれた消化力
食事がおおむね心地よく消化され、自然に空腹を感じ、食事をおいしく食べられる状態。アーユルヴェーダでは、3つのドーシャがバランスしているときの理想的なアグニと考えます。
消化しきれなかったものを「アーマ」と考える
アーユルヴェーダでは、アグニがうまく働かず、十分に消化されなかったものを「アーマ(未消化物)」と呼びます。アーマという考え方は、「悪いものを食べたから不調になる」という単純なものではありません。自分の消化する力に対して食事の量が多かったり、食べる時間や内容が今の状態に合っていなかったりすることも、アーユルヴェーダでは大切な観察の対象です。
だからこそ、まずは「何を食べればいい?」と考える前に、今、自分はちゃんとお腹が空いているかな? 食べたあと心地よく過ごせているかな?と観察することから始めます。
アグニを大切にする、毎日の食べ方
アグニはいわば、身体の中で働く「工場長」のようなもの。どんなに良い食材を選んでも、食べ続けて休む間がなかったり、一度にたくさん食べすぎたりすれば、消化する側も忙しくなります。
アーユルヴェーダの食事で大切なのは、特別な食材を揃えることよりも、まずは自分のアグニに合わせて食べること。今日からできる、基本的な食べ方を紹介します。
① お腹が空いてから食べる
「お昼の時間だから」「なんとなく口さみしいから」と食べる前に、一度自分のお腹を観察してみます。
今、本当にお腹が空いているかな?前に食べたものがまだ残っているような重たさはないかな?
自然に空腹を感じてから次の食事をとることは、アグニの状態を知るためのわかりやすい目安のひとつです。毎日同じ時間帯に心地よくお腹が空くようになってきたら、それも自分の身体のリズムを知る手がかりになります。
② 朝と夜は軽めに、昼を一日の中心に
アーユルヴェーダでは、一日の中でも時間によって身体の状態は変化すると考えます。朝は起きたばかり。夜はこれから休息へ向かう時間です。そのため、朝と夜は温かく軽めのものを、昼は一日の中でしっかり食べる、というのが基本的な考え方です。
毎日その通りにするのが難しければ、まずは休日だけでも。「いつ、どのくらい食べると自分は心地いいのか」を観察してみてください。
③ 温かく、消化しやすい調理を選ぶ
アーユルヴェーダでは、食材そのものだけでなく、どう調理するかも大切にします。同じ野菜でも、生で食べるのか、蒸すのか、煮るのか。調理法によって食べたときの感覚は変わります。
少し胃腸が重たいなと感じる日は、冷たいものや油の多い料理をたくさん食べるよりも、温かいスープや、蒸したり煮たりした野菜などを選んでみる。「身体にいい食材は何だろう?」だけではなく、今の自分にはどんな調理法が心地いいだろう?と考えてみましょう。
④ 満腹になるまで食べない
胃腸を、飯盒炊爨の「飯盒(はんごう)」だと考えてみましょう。食材をぎゅうぎゅうに詰め込んでしまったら、うまく炊くのは難しくなります。食事も同じように、毎回「あー、お腹いっぱい!」になるまで食べるのではなく、少し余裕を残す。
満腹ではないけれど、心は満足している。そんなところで食事を終えられるのが理想です。
⑤ 白湯や生姜を、食事のサポートに
アーユルヴェーダでは、白湯や生姜も日々の食事に取り入れられてきました。たとえば、温かい白湯を少しずつ飲む。あるいは、食事の前に薄切りの生姜に少量の岩塩とレモンを添える「食前の生姜」などがあります。
ただし、誰にでも同じものが必要なわけではありません。アグニの状態や季節、その日の体調によって、心地よく感じるものは変わります。「アーユルヴェーダではこれを飲まなければ」と決めるのではなく、取り入れたときの自分の感覚を観察することを大切にしてください。
⑥ ゆっくり、食事に意識を向ける
何を食べるかだけでなく、どう食べるかもアーユルヴェーダでは大切にします。仕事をしながら、スマートフォンを見ながら、慌ただしく食べるのではなく、できるときだけでも食事に意識を向けてみる。
香りや温度、食感を感じながら、よく噛んで、落ち着いて食べる。毎食完璧にする必要はありません。
まずは一日のうち一食でも、「今日はちゃんと食事をしたな」と感じられる時間をつくってみてください。
「何を食べる?」の前に、自分を観察してみる
ここまで読むと、アーユルヴェーダの食事は、特別な食材やスパイスをたくさん揃えなければできないものではないことがわかると思います。
「何を食べたらいい?」「何を摂ったらいい?」
そう考える前に、今日はちゃんとお腹が空いている?食べたあと、身体はどんな感じ?昨日と今日で、食欲は同じ?
そんな小さなことから、自分を観察してみます。
季節が変われば、身体も変わります。年齢や生活のリズムが変われば、心地よく感じる食事も変わっていきます。だから「私はこの体質だから、これを食べる」と決めてしまうのではなく、そのときの自分を見ながら、食べ方を選んでいく。
それが、アーユルヴェーダの食事のおもしろさです。
1にアグニ、2にアグニ、3から9まで通して10もアグニ。皆さんのそれぞれのアグニを大切にしてくださいね。
アグニをいたわりたい日に。アーユルヴェーダのお粥「キチュリ」
温かく、シンプルな食事をとりたい日に作ることの多い、ムングダルとお米のお粥「キチュリ」。
基本の作り方と、季節に合わせたアレンジを紹介しています。
毎日の台所で、アーユルヴェーダを実践する
eatreat.のアーユルヴェーダ料理教室では、レシピを覚えることだけを目的にしていません。季節やその日の自分を観察して、食材やスパイス、調理法を選び、「今日の自分には、何を作ろう?」と自分で考えられるようになることを大切にしています。
アグニやドーシャといったアーユルヴェーダの基本も、実際に料理を作り、食べ、日々の暮らしの中で確かめながら学んでいきます。
