身近な食材からアーユルヴェーダの知恵を紹介するシリーズ。第4回はコリアンダーシードです。
暑い日に、身体の中に熱がこもっているように感じることはありませんか。顔がほてる。頭が熱くて、夜になってもなかなか寝つけない。暑さで食欲も落ちている。そんな夏から秋にかけて、私がよく使うスパイスのひとつが「コリアンダーシード」です。
コリアンダーシードは、パクチーの種。葉の独特な香りとは違って、粒を噛むと、まるでみかんのような爽やかな香りが口いっぱいに広がります。アーユルヴェーダでは、コリアンダーシードは冷性を持つスパイスと考えられ、熱の性質を持つピッタ(Pitta)が気になる季節によく用いられます。
今回は、コリアンダーシードの性質や、夏から秋にかけての取り入れ方、そして自宅で簡単にできる3種類のお茶の作り方をご紹介します。
コリアンダーシードとは? パクチーの種との違い
コリアンダーシードは、セリ科の植物コリアンダーの種子を乾燥させたスパイスです。葉の部分は、私たちが「パクチー」と呼んでいるもの。パクチーは独特の青い香りが特徴で、苦手な方もいますが、種の香りはずいぶん違います。
コリアンダーシードをひと粒噛んでみると、みかんやオレンジを思わせる、明るくフレッシュな香りが広がります。この香りが私は大好き。購入するときは、粒がふっくらとしていて、香りのよいものを選んでください。料理に使う直前に軽くつぶすと、さらに香りが立ちます。

夏から秋にかけて意識したいピッタ
アーユルヴェーダでは、人の生理機能を「ヴァータ、ピッタ、カパ」という3つのドーシャで捉えており、同じものが環境の中にもあるとしています。
その中で、五大元素でいうと「火の性質」と紐づけられるのがピッタ。ピッタは消化や代謝、物事を判断する力などに関わる、大切な働きです。環境の中だと、日差しが強くなる夏から秋にかけて蓄積・増悪すると考えられています。
ピッタが蓄積するのを放っておくと、増悪して不調が現れる。例えば、顔がほてる、頭に熱がこもる、ちょっとしたことでイライラする。体内になんらかの炎症が起きる時がピッタの不調です。
アーユルヴェーダのケアは、こうした不調の要因をドーシャで捉え、その性質と逆のことをするというのが基本。熱い性質には、冷却作用を。つまり、ピッタが蓄積する夏のシーズンには「冷性」の質を持つコリアンダーシードが大きな味方になるんですね。
「冷やす」と「冷ます」は違う
これは料理教室でも、私がよくお話ししていることです。
暑い日には、キンキンに冷えた飲み物や、かき氷、アイスクリームに手が伸びますよね。もちろん、冷たいものをおいしく感じることもあります。ただ、冷たい飲み物を一気に飲んだあと、お腹が冷えてしまったり、なんとなく調子が悪くなった経験がある方もいるのではないでしょうか。
アーユルヴェーダでは、物理的な温度として身体を「冷やす」ことと、食材の性質を使って熱を「冷ます」ことを区別します。コリアンダーシードは、後者の考え方で使うスパイスです。
例えば、コリアンダーシードにお湯を注いで、温かいお茶にして飲む。飲み物の温度は温かくても、アーユルヴェーダでは、コリアンダーシードが持つ冷性を取り入れることができると考えます。この「温かく飲みながら、冷性の食材を取り入れる」という発想が、私はとても面白いと思っています。
なお、暑い日の水分補給は十分に行い、熱中症が疑われるときは適切に身体を冷やすことが必要です。アーユルヴェーダの食養生と、熱中症への対処は分けて考えてください。

同じ「眠れない」でも、理由は人によって違う
夏の終わりから秋にかけて、寝つきの悪さを感じる方もいるのではないでしょうか。この睡眠の悩み、一言で「眠れない」といっても、その背景は人によってずいぶん違います。
例えば、不安や心配事が頭から離れず、気持ちが落ち着かない。あるいは、仕事をしすぎたり、考え事が多かったりして、頭が冴えたまま夜を迎えてしまう。
アーユルヴェーダでは、前者のような落ち着かなさをヴァータの性質から、後者のような熱や活動性の強さをピッタの性質から考えることがあります。
もちろん、実際の睡眠には生活習慣や環境、健康状態など、さまざまな要因が関わります。だからこそ、「眠れないならこの食材」と単純に決めるのではなく、その人がどんな一日を過ごして、どんなふうに眠れなかったのかを聞くことが大切です。同じ症状でも、そこに至るストーリーは違う。アーユルヴェーダを学んでいると、食材の選び方以上に、こうした観察の大切さを感じます。
夏から秋にかけて、睡眠の質の低下を感じたら、ピッタの影響かも?つまり頭に熱が上ってて、それで眠れないのかも。と推測して、コリアンダーシードを摂ってみるのも、一つのアーユルヴェーダのケア。推測して、試してみる。それで眠りの質が改善されたら、続けてみる。そんなふうにして、自分に合ったアーユルヴェーダのケアのレシピを増やしていきたいですね。
コリアンダーシードのお茶の作り方|3つの方法
コリアンダーシードの一番手軽な使い方は、お茶にすること。お湯を注ぐ、炒って煮出す、水に一晩浸ける。同じスパイスでも、抽出方法によって香りや味わいが変わります。私は季節やその日の過ごし方によって、作り方を選んでいるので、簡単にご紹介しますね。

① お湯を注ぐだけ。温かいコリアンダーティー
「今飲みたい」と思ったら、すぐに作れる方法です。
材料
- コリアンダーシード…小さじ2
- お湯…ティーポット1杯分
作り方
- ティーポットにコリアンダーシードを入れます。
- 沸かしたお湯を注ぎます。
- しばらく置いて香りを抽出します。
- 茶こしなどで濾して、温かいうちにいただきます。
10分ほどあればできる、最も簡単な方法です。爽やかな香りがふわっと立ち、温かいお茶として楽しめます。
② 炒ってから煮出す。香ばしいコリアンダーティー
少し手間をかけたいときは、乾煎りしてから煮出します。
材料
- コリアンダーシード…適量
- 水…適量
作り方
- 小鍋にコリアンダーシードを入れ、弱火で乾煎りします。
- 香りが立ってきたら水を加えます。
- しばらく煮出します。
- 茶こしで濾していただきます。
炒ることで、コリアンダーの香りに香ばしさが加わります。どこか麦茶にも似た風味で、これもとてもおいしい。お湯を注ぐだけのお茶とは違った味わいになるので、ぜひ飲み比べてみてください。
③ 一晩浸ける。コリアンダーウォーター
暑い日のキッチン仕事などで、私がよく作っているのがこちら。コーヒーのコールドブリューのように、水に浸けてゆっくり抽出します。
材料
- コリアンダーシード…小さじ2
- 飲用水…1リットル
作り方
- コリアンダーシードを清潔なお茶パックに入れます。
- 清潔な容器に水1リットルと一緒に入れます。
- 冷蔵庫で一晩浸けます。
- お茶パックを取り出し、グラスや水筒に注いでいただきます。
時間をかけて抽出したコリアンダーウォーターは、すっきりとして、爽やかな味わい。私は、暑い季節には冷蔵庫から出して少し温度を戻して飲むのが好きです。
※水出しは衛生管理が大切です。清潔な容器と飲用水を使い、必ず冷蔵庫で抽出してください。作ったものは冷蔵保存し、早めに飲み切りましょう。常温で長時間持ち歩くことは避けてください。
どの作り方が一番「冷性」が強い?
アーユルヴェーダの伝統的な考え方では、同じ食材でも調理や抽出の方法によって、性質の現れ方が変わるとされます。私が学んだ中では、今回の3つの方法のうち、水に一晩浸ける方法が、冷性をより強く取り入れる方法として紹介されていました。
初めて聞いたときは、私も意外でした。スパイスは火を入れることで香りが立つことが多いのに、冷性を意識するときには水出しを選ぶというからです。
ただ実際にやってみると、私自身も水出しのコリアンダーウォーターは、暑い日にとても爽やかに感じます。まずは味や香りの違いを楽しみながら、好みの作り方を見つけてくださいね。
お茶だけじゃない。料理にはテンパリングがおすすめ
コリアンダーシードは、お茶にするだけではもったいないスパイスです。私が特に好きなのは、スープやカレーの仕上げにテンパリングする使い方。
テンパリングとは、ギーやココナッツオイルなどでスパイスを温め、その香りをオイルに移す調理法のこと。仕上げに加えると、料理の香りがぐっと豊かになります。
コリアンダーシードのテンパリング
材料
- コリアンダーシード…適量
- ギー、またはココナッツオイル…適量
作り方
- 小さな鍋やフライパンにギー、またはココナッツオイルを入れます。
- コリアンダーシードを加えて火にかけます。
- シュワシュワと泡が立ち、香りがオイルに移ったら火を止めます。
- 熱いうちに、スープやカレーの仕上げに加えます。
※油が高温になりすぎないよう注意し、水分の多い料理に加えるときは油はねに気をつけてください。
じゅわっと音を立ててオイルが広がると、料理の香りが一気に変わります。例えば、かぼちゃのカレー。ほっくりとした甘さのあるカレーに、コリアンダーシードの爽やかな香りが加わると、食後の印象まで軽やかに感じられます。
スパイスの効いたチキンカレーにもよく合います。夏野菜を蒸して、コリアンダーシードをテンパリングしたオイルをさっとかけるのもおすすめ。熱々の料理なのに、どこか爽やか。この組み合わせが、私はとても好きです。
コリアンダーシードは、いつからいつまで使う?
「コリアンダーシードは、いつからいつまで摂ったらいいですか?」
料理教室でも、そんな質問をいただきます。私は日本で暮らすなら、5月の立夏をひとつの目安にしています。近年は、5月でも夏のように暑い日がありますよね。そして、アーユルヴェーダでは、夏の間に蓄積したピッタの影響が秋に現れやすいと考えます。
だから、暑さが始まる頃から、秋の気配が深まる頃まで、コリアンダーシードを台所に常備することが多いのです。
ただし、何月から何月まで必ず毎日飲まなければいけない、というものではありません。同じ日本でも地域によって気候は違いますし、その年の暑さも違います。自分の身体がどう感じているか。食事や暮らしの中で、どんな性質が増えているか。季節をひとつの目安にしながら、今の自分に合わせて選ぶことが大切です。
温めるだけでなく、「冷ます」という養生も
日本では、身体を冷やさないことや、温めることが健康のためによく語られます。もちろん、寒い季節に身体を温めることは大切。けれど、暑さが厳しい季節には、熱をどう扱うかという視点も必要になります。
私がアーユルヴェーダの料理を好きな理由のひとつは、食材を単純に「身体にいいもの」「悪いもの」と分けないところです。同じ食材でも、季節や調理方法、その人の状態によって、選び方が変わる。
寒い日には温かい料理を。暑さが残る日には、爽やかな香りを持つスパイスを。「温める」ことだけでなく、「冷ます」という考え方も、日々の食卓に取り入れていきたいものです。コリアンダーシードは、その入り口にぴったりのスパイス。まずはひと粒噛んで、あのみかんのような香りを楽しんでみてください。
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食材の性質や季節の変化を学び、自分の身体に合わせて料理を選ぶ知恵を、日々の台所で実践していきます。