それぞれの人が持つ体質を考慮し、季節や年齢に応じて心身のバランスをととのえるアーユルヴェーダの料理。身近な食材を食卓に取り入れるだけでも「もうアーユルヴェーダ!」と言えるものを代表的な食材ごとに紹介していきます。第4回は冷却効果・消化促進効果で、暑い上に食欲が落ちやすい夏にぴったりの「コリアンダーシード」です。

アーユルヴェーダ料理とは
それぞれの人が持つ体質を考慮し、季節や年齢に応じて心身のバランスをととのえることができるもの。いわば考え方ですが、ちょっととっつきにくい印象があるかも。ただ、実はささやかな工夫でも始めることができ、日常の食卓にその考え方を取り入れることで、季節の変わり目にも風邪をひきにくくなったり、花粉症などのアレルギー症状が治ったり。便秘や頭痛、生理痛など、ずっと治らないと思っていた不定愁訴もいつの間にか楽にすることができます。
アーユルヴェーダを体系的に理解してないと、食事療法はどうしたらいいのか、ちょっと想像がつきづらいですね。何から始めたら良いのか。日本の食卓に馴染みやすいのか?不安に思っている方のために、身近な食材で食卓に取り入れるだけで「もうアーユルヴェーダ!」と言えるものを代表的な食材ごとにご紹介していきます。簡単なレシピのアイディアも載せておきますので、気軽な気持ちでやってみてくださいね。これでご自宅で気軽に「アーユルヴェーダ薬膳」にトライできますよ。
冷却作用・消化促進作用・整腸作用で夏のマストアイテム「コリアンダーシード」
コリアンダーシードはパクチーの種。パクチー自体はカメムシの香りがするなどと言って苦手な方がいますが、コリアンダーシード自体にはそういった香りはありません。その代わり、噛むとまるでみかんのような香りがします。蜜柑科のコリアンダーならではの、フレッシュな香りが口の中にさわやかに広がるのです。

こちらがコリアンダーシード。粒が大きくパチンと弾けそうなものを選ぶようにしましょう。
頭寒下熱でまずは「上半身のPittaを鎮静」
コリアンダーシードの魅力はなんと言っても「冷却作用」。食材が持つグナ(性質)のうち、コリアンダーシードは冷性のため、五大元素だと「火」に属し温姓のPitta(ピッタ)を鎮静する力を持ちます。Pittaは元々体質として優勢な人もいますが、夏になると環境の中でも増悪するため、環境から影響を受けて、誰もが心身でPittaの増悪を感じるはずです。
Pittaというのはつまり、熱が上に上がる。火がそうであるように上へ上へと昇る力なので、とりわけ、次のような症状が出やすくなります。
- 上半身に熱がこもる(のぼせ・ほてりなど)
- 顔が赤くなる
- 胃のあたりに炎症が起きる
- 皮膚に炎症が現れる
- 瞬間湯沸かし器のように怒る
といったことが起きます。

Pittaのエネルギーが正常に働くと、体内のさまざまな消化・代謝正確な判断で前へと進める推進力を持ち、知的に知識を知恵へと解釈したり、肌に程よく油性を含んだ輝きを放ちます。
ただ、夏から秋の季節に環境から影響を受けてPittaが体内に増悪したりPittaを増悪するような食生活を送ると、火が過剰に上にのぼり、何らかの炎症が起きるのです。怒りを抑えきれなくなったり、顔が赤くて魅力が半減したり、頭が熱くて眠りにつきにくくなったり。
最近は、火傷で爛れたようなお顔の皮膚の炎症に悩む方が増えました。紫外線が強度を増しているのでしょうか。野外でお子さんの野球観戦など、日陰のないところで長時間座って過ごしたお母さんが秋の頃に「皮膚が爛れたように荒れてしまって」と悩みを打ち明けるケースが増えたように思います。そうした経験以外にも、海辺でのBBQなど、木陰のないところで日光を長時間浴びると、どうも皮膚がこれまでにないほどに荒れるようなんです。
こうした異常な皮膚の炎症以外にも、夏場の浅い眠りは日々の疲労につながりますし「頭寒下熱」といって、頭部は涼しく、下半身は温かいというのは健康の基本。こうした状態を保つために、寒い時期は先に下半身を温めた方がいいですが、暑い時期は上半身の熱を下げることに徹底した方が功を奏します。
冷やすと冷ますは違う
頭に熱が昇っている気がする。体の表面が暑くて熱くてたまらない。そんな時、ついついキンキンに冷えた飲み物をぐびぐび飲んだり、かき氷を求めに出かけたり、アイスクリームに手が伸びたり。でも、その瞬間は涼しくなった気がしても、逆に寒くなってブルブル震えたり、お腹が壊れてトイレに駆け込んだり、そんな経験はないでしょうか?
これは料理教室などでもいつも言っていることですが「冷やす」と「冷ます」は違うのが要因です。物理的に冷たいものを摂ると、胃腸がびっくりしてお腹が壊れて下したり、体温が下がってブルブル震えるほど寒くなってしまう。
一方、アーユルヴェーダの性質で「冷性」の性質を持つものは「冷やす」のではなく「冷ます」ことができるので、胃腸に影響を与えることなく穏やかに熱をリリースし「平性」に持っていくことができるのです。
お腹が壊れて下したり、体温が下がってブルブル震える時は、火に水をかけたら火が消えてしまうように、消化の火に水をかけて消してしまうようなこと。消化の火は「代謝」のこと。アーユルヴェーダでも最も大切な人の機能を台無しにしてしまうので、くれぐれも「内臓の温度からかけ離れて冷たいもの」を摂るのはやめるようにしましょう。
後述で紹介しますが、コリアンダーシードのように冷性の性質を持つ食材は、物理的に温かい状態で摂っても、身体へのアプローチは「冷ます」ことができるのが良いところ。冷性のものを、温かい状態で摂る。この夏はこれで乗り切りたいですね。
睡眠の質を上げるのにも効果的
睡眠の質を上げるのは、健康の土台づくりに欠かせないもの。
ただ、よく聞く睡眠の悩みは次のようにいろいろあります。
- なかなか寝付けない
- 夜中に起きてしまう
- 起きても疲れているので二度寝する
この中で「夜中に起きてしまう」というのはVata性が原因で、身体に十分な重みが足りていなかったり、自律神経が乱れていたり、といったことが原因ですが「なかなか寝付けない」というのは一言で言ってもVata性もあればPitta性もあります。
Vataが原因の場合、つまりその日強い風を浴びたり、気圧が変化したりといった環境要因があった場合。または元から不安や心配が多い。もしくは骨密度が低かったり、脂肪が足りなくて体重が軽すぎる場合などにもこうしたことが起きます。
一方で、Pitta性もあるのです。Pitta性の場合は、直射日光を浴びて頭部が熱すぎる。仕事のしすぎや、考えすぎ、動画の視聴しすぎなどでブルーライトを浴びた。怒りが残ったまま消化されてない。など、そうした場合も寝つくことができません。
一言で「寝付けない」と言っても、ストーリーを聞かないと何が原因かはわからない。「起きても疲れているので二度寝する」も同様で、元々何で寝つけてなくて、もし寝つけたとしても夢の中が不安や心配でいっぱいなのか、考えすぎや怒りでいっぱいなのかによって原因は異なります。
「起きても疲れているので二度寝する」と言う場合も、単純に怠惰な心や、春の麗らかな陽気でサボりグセがついて何度も二度寝している可能性があるし、一方で、本当に疲れているので二度寝しているものの、疲れているのが眠りが浅いせいだった場合、浅い原因としてVata性なのかPitta性なのか、それはその人の話を深く聞いてみないとわからないものです。
このように睡眠の質を上げるのにも、深掘りすればさまざまなストーリーと対策が見えてきますが、夏から秋にかけては、おおむねPitta性のものが多いですし、現代人はみんなブルーライトを浴びすぎの傾向にあるので、5月から9月くらいまではコリアンダーシードで対策をすると効果は出やすくなると思います。
寄生虫撃退にも効くコリアンダーシード
コリアンダーシードの効能の一つに「寄生虫を殺す」というのがあります。これは、食あたりが増えやすくなる5月から9月にかけても有効であるということ。
食当たりの対策も様々ですがまずは「利尿を促して悪いものを流す」というのは一つの考え方だと思います。
夏場はただでさえ、クーラーに当たって油断して、水分補給を怠りやすい季節。もしくは、暑さにやられてキンキンに冷えたお水を一気に飲んで、下してしまって水分補給になっていないケースの多いのではないでしょうか。ちなみに、夏場についつい手が出るビールやアイスコーヒーは、アルコールやカフェインをたくさん含んでいるため、水分補給になるどころか肝臓の代謝に負担をかけて、疲れやすくなり、身体も冷えてあまりいいことがありません。
一方、常温でも寄生虫を殺す効果のあるコリアンダーシード。コリアンダーシードは利尿作用も高く、消化器官に居座る寄生虫を撃退するため、摂っていることで食あたりを予防・改善することができます。冷性を必要とする夏から秋にかけては、食あたりも起きやすくなるので、飲んでおくと生の野菜や魚・肉などに当たるのも防げそうですね。
ちなみに、瓜科野菜(冬瓜・きゅうり・スイカなど)や、緑茶などにも利尿作用はあるのですが、寄生虫を殺す作用があるのはコリアンダーシードだけなので、利尿することで熱をリリースするだけでなく、寄生虫対策もするのにはコリアンダーシードの右に出るものはない!ということになりますね。
お家ですぐできるコリアンダーシードのレシピ
コリアンダーシードの一番簡単なレシピは「お茶にする」ことです。ただ、どのようにお茶として抽出するかによって冷性の度合いも異なるので、改めてご紹介します。
- 白湯を注いで抽出する
最も簡単で、手軽にできるのがこの方法。「今飲みたい」と思ったら10分後にはできます。作り方は簡単で、白湯を沸かし、ティーポットに小さじ2杯ほどのコリアンダーシードを入れて、そこに白湯を注ぐ。しばらく待ってから濾すと飲みやすくて暖かいお茶のできあがりです。 - 炒ってから煮出す
少しだけ手間ですが、炒ってから煮出すことで、コリアンダーシードの効能をより引き出すこともできます。小鍋にコリアンダーシードを入れてしばらく乾煎りする。香りが立ってきたら水をさして、しばらく煮出し、それを濾して飲む方法です。麦茶に煮た風味でこれもとっても美味しい。 - ミネラルウォーターに投入して一晩「浸水」する
茶袋などにコリアンダーシードを小さじ2ほど入れてミネラルウォーター1リットルのボトルに投入し、冷蔵庫に入れる。一晩浸水すると、コーヒーの「コールドブリュー」方式でコールドブリューコリアンダーウォーターができます。冷蔵庫から取り出したら、常温に戻して、水筒などに注ぎ、これを1日かけて飲みます。時間をかけて抽出されたコリアンダーウォーターならではの爽やかな味わいに病みつきになります。
この中で、どのレシピが一番「冷性」が高いかわかりますか?
正解は「ミネラルウォーターに投入して一晩「浸水」する」です。スパイスの効能を引き出す秘訣は「火入れする」なので、私も初めて知った時意外だったのですが、冷性の場合は違うのかもしれないですね…体感としても一番涼しくなるので、本当に暑い場所に出かけるときや、夏場のキッチンではこの方法でお茶を作って飲んでいます。
ポイントは「冷蔵庫のキンキンに冷えた温度で飲まない」こと。必ず常温に冷ましてから飲みます。常温でも、温めても、冷性のものは冷性のまま。内臓の温度からかけ離れていないので身体が急に冷えることもなく「冷やすのではなく冷ます」ことができるのです。
フレッシュさを生かして、スープやカレーのテンパリングにも活用
コリアンダーシードはみかん科。噛むとオレンジのようなフレッシュな香りが広がって、気分まで晴れ晴れとしてくるところが魅力の一つでもあります。その爽やかさを活用して、蒸し暑い季節にも食べたくなるように、スープやカレーの仕上げのテンパリングに活用してみましょう。
やり方は簡単。何らかのスープや、カレーの仕上げに、ギーやココナッツオイル適量に、コリアンダーシードをパラパラっと入れて、火にかけます。シュワシュワしてきて、香りがオイルに移ったら、鍋に投入する。じゅわ〜っと香りが広がると、あっつあつのチキンカレーや、ポカポカのスープがどこか爽やかな仕上がりに。
実際に口に含んでみると、例えばポカポカするカボチャのカレーや、スパイスの効いたチキンカレーも、ずいぶん食後の体感が軽く爽やかになるものです。夏野菜を蒸し上げたところにこのコリアンダーをテンパリングしたオイルをかけたりしてもいいと思います。
どんな体質の人でも、5月から9月まではコリアンダーを常備
万能でおいしくて、魅力的なコリアンダーシードを使ったレシピ。「いつからいつまで摂ったらいいですか?」と聞かれますが、日本に住んでいるのなら、どの地域でも5月から使い始め、9月の中秋の名月が過ぎ去る頃まで常用した方がいいと思います。
ここ数年、ゴールデンウィークから異常なくらい夏日が増えました。それは東京だけでなく、北海道など本来ならまだ寒い地域でも夏日を記録しています。
少し気が早いようだけど、暦の上では5月の頭に「立夏」。夏が立ったら、コリアンダーを摂る。Pittaが増悪し、蓄積して不調が現れるのは「秋」なので、やっとPittaが落ち着いて油断する中秋の名月の頃まで毎日、毎日コリアンダーを摂ったらどうなるか?ぜひトライしてみて欲しいものです。
冷活にも取り組もう
「寒いときに身体を温める」温活グッズが日本にはとっても豊富。もちろん、身体を温めて冷やさない、というのは健康の土台づくりに欠かせないことです。
一方で「冷やす」と「冷ます」は違うことを紹介しました。ここ数年の世界的な異常気象を考えれば「冷活」はとっても大切な概念。熱が体内に篭ると、皮膚や消化器官の炎症につながり、眠りが浅くなり、上半身に熱がこもり怒りやすい人が増えてしまいます。
インド生まれのアーユルヴェーダは、暑い国ならではの「冷ます」レメディが豊富。この夏はコリアンダーシードを含め「温活」だけではなく「冷活」にも取り組んでいきましょう。コリアンダー以外の冷ますアイテムは、また別の機会にご紹介したいと思います。