アーユルヴェーダの料理と薬膳料理。どちらも食事を通して身体を整える知恵として知られていますが、その違いはどこにあるのでしょうか。薬膳というと、生薬を使った中華料理。アーユルヴェーダというと、スパイスをたっぷり使ったインド料理。そんなイメージを持つ方も多いかもしれません。けれど、どちらも特定の食材や料理名だけで説明できるものではありません。それぞれの背景にある医学の考え方を知ると、共通する部分もあれば、人の身体を捉えるために用いる理論にも違いがあります。
今回は、アーユルヴェーダと薬膳の特徴を比べながら、毎日の食事にどう取り入れられるのかを考えてみます。
アーユルヴェーダと薬膳、それぞれの考え方

アーユルヴェーダはインドに起源を持つ伝統医学。一方、薬膳は中国の伝統医学である中医学の理論に基づいた食事法です。どちらも身体だけではなく、心や暮らし、季節や環境との関係を含めて人を捉え、食事を健康の維持に役立てようとする点で共通しています。ただし、その状態を読み解くための理論は異なります。
アーユルヴェーダは、ドーシャのバランスから人を見る
アーユルヴェーダでは、Vata(ヴァータ)、Pitta(ピッタ)、Kapha(カパ)という三つのドーシャを用いて、身体の働きや変化を捉えます。生まれ持ったドーシャのバランスであるプラクリティと、現在の状態であるヴィクリティを見ながら、その人に合った食事や暮らし方を考えます。
例えば、便秘という同じ訴えがあっても、便が乾燥して硬くなっているのか、便意そのものが起こりにくいのかによって、観察するポイントは異なります。単に「便秘にはこの食材」と決めるのではなく、どのような性質が現れているのか、消化力はどうか、普段の食事や暮らしはどうなっているのか。そうした情報を通して観察しながら、その人に合った食事を選んでいきます。
薬膳は、中医学の理論から食事を考える
薬膳のもとになる中医学では、陰陽や五行、気・血・津液などの理論を用いて身体の状態を捉えます。寒さや熱、乾燥や湿り、気や血の不足・滞りなどを見ながら、食材の性質や組み合わせを考えていきます。食材にも、身体を温める・冷やすといった性質や、五味などの分類があり、その人の状態や季節に合わせて使い分けます。つまり、薬膳も症状だけを見て料理を決めるわけではありません。
アーユルヴェーダも薬膳も、目の前の人を観察することが出発点。その際に用いる理論や、食材の捉え方が異なるのです。
どちらにもある、予防と食養生の考え方

アーユルヴェーダの目的は、その古典書に「健康な人の健康を守り、病のある人の病を鎮める」とあります。一方、中医学にも、病気になる前から身体の状態を整える「未病」の考え方があります。薬膳には、生薬を用いる料理もあれば、日常の食材を組み合わせた料理もあります。
その日の身体の状態を見ながら、旬の野菜を選ぶ。温かいものを食べる。消化に配慮して調理する。こうした食事の工夫は、どちらの体系にも通じるところです。そして、新鮮な食材を旬のうちにおいしく食べることは、和食でも、イタリア料理でも、フランス料理でも大切にされていること。土地や文化が違っても、季節の恵みを食卓に取り入れる知恵には、共通するものがあるんですね。
もちろん、アーユルヴェーダや中医学は、それぞれ独自の診断・治療理論を持つ伝統医学です。日常の食養生と専門的な治療は区別して考える必要があります。
薬膳の生薬と、アーユルヴェーダのスパイス

薬膳に使われる食材と聞くと、なつめ、クコの実、八角、松の実などを思い浮かべるかもしれません。一方、インド料理でよく使われるのは、クミンシード、マスタードシード、フェンネルシード、唐辛子などのスパイス。一見すると違うもののようですが、実際には共通する素材もたくさんあります。
例えば、生姜。日本では薬味として親しまれ、インド料理ではスパイスとして使われ、漢方でも生薬として用いられています。フェンネルシードも、インド料理ではスパイスとして、中医学では「茴香(ウイキョウ)」として知られる植物の種子です。同じ植物でも、どのような理論に基づいて使うか、どんな調理をするかによって役割が変わります。
中国とインドでは、長い歴史の中で人や物、文化が行き交ってきました。食材の使い方に共通点が見られるのも興味深いところです。「これは薬膳の食材」「これはアーユルヴェーダのスパイス」と分けて考えるよりも、それぞれの特徴や使い方を知ることで、料理の選択肢はもっと広がります。
和食も、アーユルヴェーダの考え方で作ることができる

私がアーユルヴェーダ料理の魅力だと感じているのは、特定の国の料理に限定されないところです。その人が暮らす土地で手に入る旬の食材を使い、消化力や季節、身体の状態に合わせて調理する。こうした考え方をもとにすれば、インド料理だけでなく、和食にもアーユルヴェーダを取り入れることができます。
例えば、ごはんと味噌汁、焼き魚とお浸し。旬の野菜を使い、その日の身体に合った調理をして、適量をいただく。そんな献立も、アーユルヴェーダの視点から考えることができます。
韓国料理の参鶏湯も同じです。鶏肉に、なつめや生姜、ニンニク、松の実、クコの実などを組み合わせ、じっくり煮込んだスープ。肉の出汁による滋養や温かさを取り入れたいときには、アーユルヴェーダの考え方とも重なる料理になります。
大切なのは、それがインド料理かどうかではなく、今の自分に合っているかどうか。同じ焼き魚でも、魚の種類や調理方法、食べる人の状態によって、食事としての適切さは変わります。参鶏湯も、滋養のある料理だからといって、誰にでも同じ量が適しているわけではありません。
食材や料理を一律に「良い」「悪い」と決めるのではなく、今の自分の状態に合わせて選ぶ。その自由さと柔軟さが、アーユルヴェーダ料理のおもしろさだと思います。
薬膳もアーユルヴェーダも、頭を柔らかく取り入れる

薬膳とアーユルヴェーダを比べてみると、それぞれ異なる理論を持ちながらも、日々の食事を大切にする点では共通しています。日本で暮らす私たちにとって、温かい水餃子やお粥が、季節や体調によっては心地よい食事になることもあります。
アーユルヴェーダの考え方から料理を選ぶときに、私が大切にしているのは、
- 今の自分に合っているか
- 土地や季節に合った食材を使っているか
- 新鮮で、できたての料理か
- 消化力に合った量や調理方法か
- 食事に意識を向け、感謝して食べているか
ということです。
「これは中国のものだから」「これはインドのものだから」と料理を分ける必要はありません。それぞれの知恵を学びながら、今の自分と、暮らしている土地に合った食事を考える。そして食べ終わったあと、身体も心も軽く、次の食事までに気持ちよくお腹が空く。そんな感覚を大切にしながら、日々の食事を楽しんでいきたいと思います。
参鶏湯を、アーユルヴェーダの視点から作る
eatreat.では、料理の国籍にとらわれず、アーユルヴェーダの考え方を日本の食卓に取り入れています。そのひとつが、烏骨鶏とビーツを使った参鶏湯です。韓国料理として親しまれる参鶏湯を、食材の性質や滋養、季節の食養生という視点から捉えたレシピです。アーカイブレッスンでは、実際の作り方をご紹介しています。
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